スバル・レヴォーグ VS VWゴルフ・ヴァリアント



 


ワゴンの美学

ロードカーの「走り」とSUVの「ユーティリティ」を兼ね備えたワゴンは、質の高いカーライフを突き詰めて考えた時に、ふと「最良の選択ではないか?」と気付いたりする。SUV全盛の時代だけど。カローラの屋台骨であるワゴンボデーの「ツーリング」は、軽自動車を含めた日本市場全体でも「人気車」としてトレンドの主役を担っている。セダンとは違ってワゴンは簡単には消えそうにない。SUVは良い点もたくさんあるが、一般的に「揺られる動き(ロール運動)」はわかって選んではいるけど顕著な欠点である。それに対してワゴンは、ラゲッジ下のリア足回りが固められていて、セダンよりもフラットな走りは、「高級な乗り味(動的質感)」を感じられる。


全高があるSUV(H1650mm以上)を嫌い、ワゴンとSUVの中間くらい(H1550mm前後)に納めた「クロスオーバーワゴン」あるいは「クーペSUV」も多くのブランドでラインナップされている。中途半端なシルエットがまだまだ馴染めないせいもあるかもしれないが、抜群にスタイリッシュと感じるモデルが見当たらない。CクラスワゴンやアウディA4アバントをリフトアップした「オールテレイン」や「オールロード・クワトロ」はブランドに相応しい優美さこそあるけど、価格(700〜800万円)が気にならなくなるほどの特別なもの(熱狂させる要素)は感じない。




気軽に使えないワゴン

初心者を含め日本の多くのユーザーに、それほど負担感なく受け入れられてきたロードカー・タイプのワゴンはどんどん姿を消していて、現状では前述の「カローラ・ツーリング」の一択となっている。肩肘張って高級車に乗るのはちょっとしんどいし、相応の経済的負担も嫌だ!!という人が、気楽に使いたいから選ぶタイプがワゴンだと思っている。それなのに、カローラ・ツーリング以外の現行ワゴンは、スペック面も価格面も、ちょっとした高級車になってしまっている。トヨタとダンピング競争するわけにもいかないので、付加価値型のクルマじゃないと成り立たないのかもしれない。


2014年に発売されたスバル・レヴォーグは、完全に北米向けにシフトしたレガシィから分離して、日本市場向けに開発された新型ワゴンということで脚光を浴びた。カローラ・フィールダーやウイングロードが100万円台後半でラインナップされていた時代に、なかなか強気な200万円台後半で設定されたが、「商用車っぽくないワゴン」という絶妙な設定がハマり、乗り出しで300万円を超えるクルマとしては、かなり良く売れていた。



まさかの右ハン専用グローバルモデル


現行の2代目レヴォーグは、1.8Lターボと2.4Lターボの設定となっている。初代の1.6L&2Lよりも排気量がアップしているのだから、さらに価格が上がってしまうのは仕方がない・・・と納得しそうだけど、1.8Lと2.4Lは北米向けのエンジンを流用したものだ。初代が掲げた「日本専用モデル」のインパクトは、かなり薄まってはいるように思うが、それでもスバル車の8割が販売される北米市場には今でもラインナップされていない。グローバルでも年間3万台もいかない販売規模だから、WRXとの「一括企画」にならざるを得ない。


海外市場では右ハンドルが主流のオセアニアに、レヴォーグの2.4Lターボモデルのみが輸出されていて、オーストラリアでは「WRXスポーツワゴン」、ニュージーランドでは「WRX・GT」の名称で販売されているらしい。日本でのデビュー当初(2020年)は1.8Lターボのみだったが、翌年のWRXのフルモデルチェンジで2.4Lターボが追加されたが、これは物価水準が日本より段違いに高いオセアニア市場向けにコスト配分したモデルを、日本でもついでにラインナップしたパターンかもしれない。1.8Lが310万円〜、2.4Lが444万円〜でその差はかなり大きい。



ワゴンといえばドイツ車だろ!!


日本専売の1.8Lターボより、メーカーが自信を持って右ハンドル高所得国に撃ち込んでいる2.4Lターボの方がやはり魅力的に思える。思い立ったらディーラーに・・・スバル車の本質は「情熱」にほだされて「思い込み」で買うクルマだ。それでも2.4L車の444万円スタート価格はかなりの上段構えであり、同等の価格の日本メーカー車を挙げるとすれば、スカイラインやクラウンだ。ワゴンとなると、「クラウン・エステート」が2024年頃に予定されているくらいか。輸入ブランドだと、ワゴンが得意なドイツの全陣営(メルセデス、BMW、アウディ、ポルシェ、VW)から発売されてはいるが・・・。


その中では最も手頃な価格設定のVWゴルフ・ヴァリアントは、ボトムグレードが330万円からなのでレヴォーグをかなり意識しているのかもしれない。車格もレヴォーグとほぼ同じの輸入車だけど、444万円を超えるグレードは300psオーバーの「ゴルフ・ヴェリアントR」(652万円)だけしかない。レヴォーグと比べて全体的にスペックは控えめだけど、経済性に優れていてパワフルに走れる2Lディーゼルモデル(374万円〜)が、レヴォーグの2.4Lターボより安い。ワゴンに乗りたいけど「レヴォーグはCVTが・・・」と気にしている人にとっては、有力な選択肢になりそうだ。



「これじゃない感」のするワゴン


ディーゼルのワゴンだったらMAZDA6が338万円(新価格)からあるのだけど、このクルマは「ワゴンにしては整い過ぎている」というやや主観的で説明するのが少々面倒臭い問題が横たわっている。ブランド全体でフォーマル度を高めているMAZDAは、SUVもリアオーバーハングを切り詰めて、ボデー後部が間延びしないトータルデザインが採用されている。ハッキリ言ってしまえばブランドコンセプトが「ワゴンに向いていない」。日本や右ハンドル国向けワゴンのレヴォーグだったり、カローラやゴルフのように「機能美」としてのワゴンボデーに親しみを感じてワゴンを選んでいる人にとっては案外に「パッション」を感じないのではないだろうか(個人差はあります)。


カローラ・ツーリングもMAZDA6ワゴンも、単なるコスパだけでなく、それぞれに良いところがたくさんあるので、機会があったらまとめて書いてみたい。某カーメディアに「レヴォーグはライバル不在」とあった。ただし「ライバル不在」は必ずしも褒め言葉にはならない。ちょっと冷静に考えれば、他社が真似しないアンタッチャブルな「ヘンテコ設計」だとも受け取れる。もうすでに「右ハンドル専用グローバルカー」ってだけで、かなりヤバい感じは出ているが・・・。



なぜレヴォーグが日本COTY受賞なのか!?

他にもヘンテコ要素はたくさんある。2020年代に発売された比較的に新しい普通車にもかかわらず、全てのグレードで電動デバイスを使っていない。フランス車にもストロングハイブリッドが使われていて、ランドローバー・ディフェンダーやマセラティ・グレカーレといった趣味性の高いモデルにもしっかり電動デバイスが用意されている時代である。他に非電動の2020年以降発売のモデルは、WRX、BRZ&86、フェアレディZでいずれも北米向けのスポーツモデルだけ。


スバルを批判するつもりは毛頭ない。このレヴォーグを「日本向け」とか「環境意識が高い右ハンドル国向け」として堂々と売ってしまう「空気を読まない」感じが痛快ですらある。北米ではガソリン車で利益を出しておきながら、日本市場にはe-POWERやPHEVばかりを「ポリシー」だと言わんばかりに押し付ける日産や三菱よりもずっと信用できる。自動車メーカーがそれぞれに個性を出すことは結構なことだ。まだまだメーカーがたくさんある日本だから、いろいろ選択肢があるので「差別化」は必要だし、「エゴ」全開でいいと思う。



VWのコスパをジワジワと実感するこの頃

一方で、2010年代の中盤には、アメリカ政府と中国政府に「鬼詰め」されたフォルクスワーゲンだけども、猛反省ののちにクルマ作りがどんどん良くなっているように思う。なかなか日本に入ってこなかった8世代目のゴルフは、2013年頃にゴルフ7を買った人々や、輸入車が嫌いな人々から、「賠償金の負担が大きくて、クルマの質感が大きく損なわれている!!」みたいな批判にさらされていたが、使い勝手は間違いなくゴルフ8の方が格段に良くなっている。ゴルフ7は発売当初からナビが日本語対応していないメチャクチャな仕様だった訳だし・・・。


「変わり者」のレヴォーグと、「真面目になった」ゴルフ・ヴァリアントは、どちらも「特別なクルマ」を感じさせる要素を十分に持っている魅力的なモデル。しかも一般の日本人の所得でもなんとか買える(ギリギリ)。ゴルフ・ヴァリアントは最上位の「ゴルフR」を除いて、ガソリンターボは電動デバイスが入っているし、もちろんディーゼルグレードのモード燃費はスバルのボクサー・ターボとはレベチだ。北米市場ではスバルとVWが同じくらいの販売台数で「8位争い」をしている。今後も切磋琢磨して、味のあるこの2台のワゴンを作り続けてほしい。





コメント

このブログの人気の投稿

ホンダ・シビック VS MAZDA3セダン

FFのSUVはダサいのか!?