ホンダがDCTを採用したとたんに「トルコンATがベスト!」って・・・

  ちょっと難しい話ですがオートマチック・ミッションの話をしたいと思います。タイトルにもあるように、ユーザーを舌先三寸で誤魔化すアホメディアが、突如として「掌返し」を始めました。ちょっと悲しい話ですけども、80年代以降の世界の自動車産業をリードしてきたといっていい日本は、メーカーの秘密主義も災いしてか国民全体がクルマについて無知です。そしてクルマに関しては"愚民"といえる人々の社会ではカーメディアも全くといっていいほど機能しておらず、中国政府が世界に向けて「多雨の東アジア地域では(一部の)DCTはまったくもって不適切!」という公式声明を出すまでは、欧州車を中心に搭載されるDCTに何ら疑問を持っていなかったのが実情です。日本の自動車産業はまだ中国には負けていないですが、カーメディアは完全に負けてしまったようです・・・。

  AT(オートマチック・トランスミッション)には現在大きく分けて3種類あります。メンドクサイことに専門家による優劣の判断が保留されたまま3種類ともに日本市場では勢力を伸ばしていて、結局どれがいいのかよくわからないという人が多いです。3種類とは「トルコン」「CVT」「DCT」で、それぞれの特徴を以下に簡単に言っておきましょう。

  「トルコン」はATとしては最も歴史が長く、その分研究も十分にされ世界の大手メーカーの全てで実用化されてきたので、それぞれに熟成が進んでおり変速ショックで乗り心地を損なうことが少ない多段化されたものが主流になっています。ちなみにトルコンとはトルクコンバーターの略ですが、これは粘度の高いオイルを使う変速機なので、従来のMTに付随する歯車が摩耗するリスクは大きく軽減されます。つまり構造的に耐久性が非常に高く、欧州でかつてトルコンATに対抗して作られた「自動MT制御」に比べて故障率はかなり低い水準に抑えられています。

  もっとも現在のトルコンは「プラネタリーギア」という副変速機を使うことでスピーディに細かい変速を実現していて、この部分は歯車が使われているので完全に摩耗リスク・フリーというわけではありません。それを差し引いても他のミッションよりも、断然に信頼性が高いですし、燃費やコストよりも第一に乗り心地を重視する高級車を中心に多数採用されています。ひと昔前のトルコンには酷いものもあったようで、某フランスメーカーの下位グレード車では、過去に実用に耐えないほど酷いトルコンATが使われていたこともあるなど、車両価格を抑える設計のクルマを中心に粗悪なものが数年前まで新車で発売されていましたから、中古車を選ぶ時にはトルコンだからといって安心できないようです。

  「CVT」は変速部分にゴムバンドやメタルチェーンを滑らせる機構を使い、無段連続変速を可能にした比較的新しいATシステムです。あらかじめコンピュータ上のプログラムを使って、変速機とエンジンやモーターを連動させて制御するので、エンジンの無駄な回転を防ぐという意味では、最良の燃費を誇る変速機と言えます。またHVなど動力源が複数あるユニットで、力を合成するときに有利なシステムなので、HV車(ストロングHV)ではCVTが業界の常識とされてきましたが、最近ではホンダがEVモード付きのストロングHV社にDCTを組み合わせたミッションを採用し始めました。

  先ほども述べましたが、CVTの要点はエンジンの回転数をコントロールすることあり、エンジンの熱効率の最も良いところを長く使うことで、トルコンよりもかなり燃費が稼げます。HVの有無にかかわらずエンジン(内燃機関)を使うクルマを「経済性」においてさらに大きく進化させる為には、すでに開発しつくされたエンジンの基本構造に手を加えるのではなく、エンジンの外部にあたる吸排気(EGR)や燃料噴射方式を改良するなどの研究が進められています。エンジン以外の部分で燃費向上のカギを握る「変速機」においても開発は日進月歩で、使用環境が主要国の都市部では避けられない混雑を想定するならば、CVTが最も優れた「経済性」を発揮すると考えられています。しかし研究の歴史がまだまだ浅く、一般に乗り味が劣るという意見もあります。そして基本的にエンジンの回転数を制御する方向で持ち味を発揮するので、ターボチャージャーとの相性がやや悪いという特徴もあります。それでもスバルはターボとCVTを高いレベルで両立させつつあります。

  「DCT」は流体(トルコン)でもゴムバンド(CVT)でもなく、MTと同じで歯車同士をクラッチの自動制御によって繋ぐため伝達効率が最も良く、ストップ&ゴーが極端に少ない走行環境では頻繁な変速が必要ないので、MTと同じでその条件下ではCVT以上の燃費が稼げます。DCTが脚光を浴びたのは、2003年に発売されたVWゴルフ5がDCTと1.4Lツインチャージャーという新基軸を持ってセンセーションを起こしてからでした。その後フェラーリやポルシェそして2007年に登場したランエボXとGT-Rといったハイパワーを誇るスポーツカーで採用されました。パワーを売りにするクルマですから、ロス無く出力を発揮でき、変速スピードも高い水準に達した変速機としてにわかに脚光を浴びました。

  ハイパワーモデルに使われる高コストな湿式DCTとは別に、欧州ブランドの小型車用ミッションとして、コスト面でトルコンやCVTよりも優位に立つことができる乾式DCTが今日では広く普及しています。研究当初から乾式DCTは日本の気候に耐えられないと判断して日本メーカーは一様に導入には否定的でしたが、昨年発売されたホンダが3代目フィットのHVモデル限定で導入されました。ホンダの開発したストロングHVとDCTの組み合わせは、トヨタのHVシステムを上回るために、ホンダが功を焦って投入した感が発売当初からありました。中国政府が示した乾式DCTに対する否定的な見解を、ホンダならばひっくり返すのでは?という淡い期待もむなしく、DCTの脆弱製をフォローするプログラムの不備が原因の不具合で残念ながらリコールへと発展してしまいました。

  もはや結論ありきな書き方で恐縮ですが、一般に燃費を最優先するクルマは「CVT」か「DCT」を選ぶ傾向にあります。そして日本市場を支配するトヨタは、日本全人口の3/4が居住する"太平洋ベルト"地域の道路事情で最も効率的な「CVT」を選択し、一方で欧州市場を拠点にするVWは、ストップ&ゴーが少ない欧州の道路事情を鑑みて「DCT」を主軸のミッションとして導入しました。日本メーカーの小型車は日産・ホンダ・スバル・マツダがことごとくトヨタが導入した「CVT」に追従し、欧州メーカーのPSAやフィアットはVWの「DCT」を次々に採用しました。

  この段階ではメーカーもユーザーも非常に健全な関係だったのですが、この世の害でしかない"自動車評論家"という愚かな人々にとってはその「幸せな関係」がとても気に入らなかったようで、さかんに「CVT」は乗り味が悪いから日本メーカーも「DCT」を採用すべきだ!という暴論を盛んにぶち込み始めます。一部のスポーツカーを除けば、VWやプジョーのトレードマークをなったDCTを持ち上げることは、「日本車叩き」というカーメディアのルーティンとも非常に整合性が高かったようで、「麻薬」のように各レビューの中に次々と「DCTは素晴らしい!CVTはクソ!」といった主旨が盛り込まれます。先ほど述べたように中国政府やアメリカのカーメディアがVWのDCTの脆弱製を語り出しても無視を決め込み、相変わらずのガラパゴス議論で日本の走行環境に合わないDCTを賞賛し続けました。

  カーメディアが絶賛するDCTを全グレードで装備したゴルフ7にいざ試乗してみると、何がいいのか分らない?という人が続出したと思います。セールスマンに上手く言いくるめられて買った人も多かったようですが、ゴルフ5の頃とは大きく違う"ネット時代"ですから、あっという間に「王様は裸だ!」という正直者がそこら中に沸き上がります。「ゴルフもAクラスも全然ダメじゃん」というのは、自動車の経験年数に関わらず多くの人が感じる率直な意見です。これを日本COTYに選んでしまうということは、50人のジャーナリストからなる審査員は「嘘つき集団」といってもいいでしょう。

  そんな「嘘つき集団」が去年辺りから突然に「DCT最高!」とは言わなくなりました。中国やアメリカでバッシングが続いても知らんぷりしてきたのに、なぜ突然に意見を変えてしまったのか?ジャーナリスト全員に聞いて回ったわけではないですが、時期を考えるとホンダ・フィットの発売時期に重なってきます。ホンダを誉めるような行為は、トヨタの不興を買うのかもしれませんが、DCTバブルが完全に崩れ去ってもっともコストが掛けられて高級な乗り味を発揮する「トルコンATこそが最良」という表現が最近の評論ではやたらと目に付くようになりました。とりあえず「嘘つき集団」のデタラメレビューに乗せられてゴルフやAクラスを買ってしまった人々が不憫でなりません・・・・。


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コメント

  1. 両角サンの見解

    CVTは機構内部の摩擦など損失がかなり大きく、先ほども触れた「日常的な走行速度域」
    を巡航している時の内部損失は30%前後ほどもあると見られる。
    つまり常用域の「伝達効率」は70%ほど。

    作り、使っている企業はなかなかその実体を公表しないが
    私自身が同じ車種でMTとCVTを比較実測したデータ、あるいは欧州の自動車メーカーや
    サプライヤーの専門家への確認、CVT開発者との雑談などで得られた情報を総合すると
    そのくらい大きなロスが実存することは確実だ。

    これに対してマニュアルトランスミッションの伝達効率は同じような走行条件下で90%以上
    最新の欧州製品は94~95%に達しようというレベルだという。
    デュアルクラッチトランスミッションは85~90%かもう少し良いあたり。
    これに対して9HPは80%台の後半のようだ。内部機構の内容から見ても従来のATよりも
    少し良くなる要素が様々に盛り込まれている。

    すなわち9HPは、「実用領域の伝達効率が低すぎるCVT(特にベルト+プーリー方式)に自動車用変速機としての未来はない」
    と言い切るZFの技術者たちによる、CVTに対する強烈なアンチテーゼでもある、と私は理解している

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    1. 欧州の使用環境ではDCT
      日本ではCVT
      というごくごく当たり前の話です。

      私が言いたいのは
      なぜバカ評論家が
      このタイミングでトルコンATを持ち上げ始めるの?
      ということです。

      削除
  2. 伝達効率についてはちょっと面白い話があって、VWがMT・DCT・ATの入力トルクに対する伝達効率を発表した事がありましてね
    湿式DCTと6速ATの効率の差は1~2%だったんですよ
    おかげでCVTの効率は更に低くなってしまいました(笑)

    両角さんのCVT嫌いは技術的な部分での師匠にあたる兼坂弘先生の受け売りです
    毒舌評論で実用化目前のECVTについて兼坂先生とスバルの技術者の対談をやってたので

    返信削除
    返信
    1. DCTとトルコンATの伝達効率がほとんど差がないというのは
      一定の条件下での結果に過ぎないです。
      ギアチェンジの頻度が多ければトルコンAT>DCTになるのは自明です。
      別に評論家の見解に頼らなくても、VWやPSAがDCTを使い、レクサスやBMWがトルコンATを使い、多くの日本メーカーがCVTを使う理由なんて解ると思いますが・・・。
      評論家なんて所詮は自分で考えることができない痴呆を相手にした悪徳商売です。
      ZFの技術者のコメントの中には日本の道路事情は考えられていないですし、
      それを承知で掲げてくる評論家は偽善者か本物のバカのどちらかだと思うのですが・・・。
      まあCVTの加速フィールが嫌いという"個人的意見"には大いに賛同しますけど。

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